大学の学びを体感し未来を考える
——立教大学×滝高校

立教大学特別授業

2024/01/11

研究活動と教授陣

OVERVIEW

10月2日、愛知県の滝高等学校にて立教大学の特別授業が実施された。参加した生徒たちは、音楽社会学を専門とする大学教授による授業を聞き、大学での専門的な学びと雰囲気を体感。自分の興味?関心と近い未来について考えながら、真剣な表情で授業に向き合っていた。

社会学部特別授業

熱心に生徒たちに語りかける井手口教授

井手口彰典 教授

研究分野
音楽社会学、メディア文化論
研究テーマ
現代における音楽文化の特徴、メディア環境や文化的背景に注目した音楽に関する諸問題

「あたりまえ」の奥に 社会を<視>る —現代の音楽文化を事例に—

組み合わせで広がる 身近な社会学の世界

講義序盤。社会学について説明

人間は一人で社会を構成することはできません。人と人が集まった社会で起きる、あらゆる問題や現象を研究するのが「社会科学」という学問領域で、「社会学」はこの社会科学に分類されます。

複数の人が集まってうまく生活をしていくためには「盗んではならない」や「暴力をふるってはならない」など、さまざまなルールが必要です。そして、そのルールを作るために法学や経済学、政治学などの多様な学問が生まれてきました。けれども、いじめやヤングケアラーの問題、気になるアニメや買いたい服といった興味?関心事などは、すべて社会の中で起きているにも関わらず、法律や政治、経済といった枠組みのみには還元できません。そこで、それらをまとめて研究する学問として社会学が生まれたのです。

社会学は社会科学のなかでも比較的歴史が浅く、何でも扱うというくらい範囲が広いため、「連字符社会学」とも言われます。連字符とは英語で言うと二つの言葉をつなぐハイフンのこと。つまり、社会学は「社会」と医療?環境?教育?芸術?スポーツ?メディアといったさまざまなジャンルを組み合わせて研究されることが多い学問なのです。そして私は、社会に「音楽」を結びつけた研究をしています。

埋め込まれた常識から 社会と音楽を考える

特別授業会場の様子

音楽における「あたりまえ」を疑ってみましょう。まず、普段どのように歌を歌いますか。「どのようにって、普通に歌うよ」と思った人は、その「普通」が何かを考えてみてください。例えばカラオケで歌うとき、多くの人は地声で歌うでしょう。しかし、音楽の授業で合唱の練習をする際に「頭のてっぺんから声を出すように」と、頭声で歌うように指導された経験がありませんか。あるいは、クラシック音楽やオペラを想像してみてください。カラオケとは歌い方が全く違いますね。

歌い方が違う理由には、社会が関係しています。例えばオペラのように声を張り上げる歌い方は、まだマイクがない時代に声を遠くまで届けられるように編み出された特殊なものです。しかし、マイクが登場した現代は声を張り上げる必要はなくなり、ささやくような歌も多くなりました。私たちの歌い方は、時代や環境、メディアによって大きく左右されていることが分かりますね。

続いて、音楽の長さについて。ポピュラー音楽の大部分が1曲3分から5 分の長さに収まっていることはご存知ですよね。実はこれも、「あたりまえ」ではありません。ベートーヴェン交響曲第9番は指揮者にもよりますが普通は1時間以上かかり、第4楽章(喜びの歌)だけでも20分はあるのです。ではなぜ、20分のポピュラー音楽は一般的でないのか。これには、SPレコードで音楽を聴くことが主流であった時代の文化が関わっています。最初は世間ではやった音楽がレコードにされて売られていたのですが、そのうち、力を持ち始めたレコード会社が商品として売った曲がヒットするようになりました。そして、このレコードの収録時間が最大でも3分から4分。つまり、レコードにして売るためにポピュラー音楽1曲の時間は3 分から4分で定着するようになったのです。

しかしながら、時代はさらに変化して音楽を聴くための媒体はMP3やYouTubeといった収録時間の制限がないものに。もはや1曲に何分かかろうと関係がないはずですね。では、なぜ皆さんが聴いている音楽はいまだに5分程度のものなのでしょうか。このように、音楽に潜む疑問をもとに社会を研究するのが音楽社会学です。

その「あたりまえ」を 疑問視するところから

実際に歌を歌って講義を展開

世の中は、今この瞬間も徐々に変化しています。では、音楽にはどのような変化が生じているのか問題意識を持って<視>てみましょう。まずは「次に何を聴くのか」問題。レコードやカセットテープが主流だった時代は、曲送りが面倒なため収録された順番で音楽を聴くことが普通でした。そのあとに登場したCD はボタン一つで曲送りができるものの、違う歌手の曲を聴きたい場合はCDを入れ替える手間が生じますね。しかし、現在主流となっている音楽サブスクリプションでは、その手間すらありません。クリックするだけで瞬時に聴きたい曲へ飛べるのです。

音楽において近年特に変化を実感できる点としては、イントロの短縮やテンポの高速化が挙げられます。これは、今日的なオンラインストリーミング中心の聴取環境下で、リスナーの注意をなんとか引こうとする製作者側の努力を示唆するものではないかとも言われています。メディアの進化とともに、音楽も現在進行形で変化しているのです。

続いて「音楽は音楽だけで完結しない」問題について考えていきます。近年特に、面白い振り付けが付く曲がはやるという実感はないでしょうか。「踊ってみた」というキャプションがついてSNSで話題になることもしばしばありますね。このような音楽と踊りの組み合わせは、突如として広がった文化のように思えるかもしれませんが、少し立ち止まって考えてみてください。あらゆる世界で昔から存在していた民謡やダンスといった音楽の大半は踊りを伴っているのです。

そもそも音楽と身体運動は密接に関わっていたはずなのに、20世紀に入ると両者の結びつきは薄れてしまいました。音楽を聴くための媒体であったレコードやカセットテープ、CDには身体運動を記録することができなかったからです。そうして、音楽と踊りはいつしか切り離され、リスナーは「ただそれを聴くだけ」というスタイルが一般化していきました。しかしメディアが変わった今、音楽と踊りは再び結びつきを強めています。

このように考えると、個人が考える「あたりまえ」や「常識」がいかにもろいものかが見えてきますね。音楽という実践は、その社会がどのような社会であるのかという問題と深く結びついています。音楽に限らず、さまざまな常識や正義、倫理、美というものは社会の在り方に左右されているでしょう。社会が違えば、変化すれば、何が正しいかも変わりかねません。それが大学で学ぶ、社会学の世界なのです。

Student’s Voice 滝高校生に授業の感想を聞きました

  • 1年生女子
    「あたりまえ」だと思っていた文化が時代背景と結びついていることを知り、社会学の面白さを知りました。もともと興味のあった人間の心理や社会の在り方を学ぶことに、さらに魅力を感じられた授業でした。
  • 1年生男子
    身近なポップミュージックが社会の影響を受けていると聞き、あらゆるジャンルと結びつく社会学の面白さを知りました。日常生活や文化、歴史にもっと目を向けて、さまざまなことに疑問を持とうと思います。
  • 1年生男子
    僕は社会学が比較的新しい学問だと知り、「学問って増えていくんだ!」と驚きました。特別授業は、今興味を持っている学問で本当に自分が知りたいことが学べるのかを考え直す良い機会になりました。
  • 1年生女子
    私は曲のイントロが短くなっているという現象について、新聞で読んだことがあるのですが、その理由を授業で知ることができて音楽の変化への理解が深まりました。日々、物事を多面的な視点で考えようと思います。
※本記事は『中日新聞』(2023年11月11日掲載)をもとに再構成したものです。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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